ガッシャーンンッ!!

 昼下がりのディセプティコン基地に、重量のある金属の固まりが、何かぶつかった音が響いた。それと同時に、

「ちくしょうめ! どきやがれ、馬鹿ワープ!」

サンダークラッカーの喚き声が上がった。





... and kiss.5 and kick!





 理由は何だったのか、さっぱり分からねェ。とにかくスカイワープのヤツが、ご機嫌斜めだったことだけは確かだ。
 アイツ、普段はヘラヘラと、どうでも良いことを喋り倒しているくせに、機嫌が悪くなると黙りこむ。黙って拗ねているだけならいいが、俺に八つ当たりしてきやがる。なんだか知らねェが昔からだ。面倒くさいったらない。
 ――スカイワープと俺は飛行型の同型機で、見てくれは同じだ。でも実は、スカイワープの機体のほうが、全体的にわずかに大きく作られてる。ワープなんつーエネルギー放出のデカい技を使うからってのが、その理由らしい。ま、そこンとこの理屈は、俺にゃよく分からねェがな。そンでもって、アイツの黒の塗装ってのは、どうやらアイツの大きさを、実際よりも小さく錯覚させる効果があるらしい。っつーことで、普段はその錯覚ってのに誤魔化されてるんだが、近くに寄って来られると、やっぱ大きいなって思う。スカイワープとはずっと一緒にやってきて、サイズの差なんて今まで気にならなかったんだけど……妙に圧迫感を感じるんだ。とくに最近。そんなワケで、ここんとこ俺、正直、アイツにはあんまりそばに来てほしくないと思ってる。べつにキライになったってンじゃないんだがな……。
 だから、こン時も黙って迫ってくるアイツから、俺ァ少し距離を取るようにしていたんだ。そしたらアイツ、いきなり飛びかかってきやがった。アイツ、バカじゃね? いや、俺だってブレインサーキットの出来は、そう良いほうじゃァないがよ、それにしたってよ。だいたい、自分より小さいヤツが飛びかかってきても、結構な衝撃があるんだ。同型で、しかも自分よりちょっと大きめのヤツが飛びついてきたら、受け止めきれるわけないだろ。案の定アイツ、飛びかかってきた勢いのまま、俺を押し倒して下敷きにしやがった。もちろん、俺だって黙ってやられてたワケじゃない。覆いかぶさってるスカイワープの顔面めがけて、パンチをお見舞いしてやったさ。そうしたら、だ。アイツ片手で易々とパンチを止めやがった。その上、掴んだ腕をそのまま床に押しつけて、俺の動きを封じやがった。
 俺らシーカーは、仰向けの状態で片腕を封じられると、どうにも身動きが取れなくなっちまう。背中にくっついてるデカい翼のせいだ。起き上がることもできない。俺は、床に磔にされたまま、情けなくジタバタするしかなかった。

「はなせよ! てめェ、いい加減にしやがれ!」

 せめてもの腹いせに思い切り怒鳴りつけてやったら、アイツ、うるさそうに俺をチラ見して、少しだけ機体を起こした。俺の腕は抑えつけたままだ。なんだよ、その余裕。マジ腹立つ。俺は、下からスカイワープを睨みつけた。スカイワープは、そんな俺の視線を見事にスルーして、しばらく俺を見下ろしていたかと思うと、おもむろに空いてるほうの手を挙げた。殴られる! と、俺は思ったね。反射的に、掴まれてないほうの腕で顔をガードして、歯を食いしばった。
 だけど、衝撃は来なかった。
 その代わり、腰部装甲の表面に、ほんのわずかの圧力変化を感じた。スカイワープの手が、そこに触れたんだ。
 俺は、完全に殴られることを想定してたから、この感触は予想外だった。予想外すぎて驚いて吸気したから、「ひゃ」だか「うひ」だか変な音が出ちまった。ちくしょう。それもこれも、ワープのヤツが妙な触り方するからだ。慌ててガードしていた腕を退けて見上げたら、アイツ、真剣な顔して俺の腰部装甲を撫でてやがった。真剣さの使い所、間違えすぎだろ馬鹿野郎。

「何してやが、おい! やめろってコラ……っア!」

 抗議した俺の声が、妙な具合にひっくり返って、消えた。ワープの馬鹿野郎が、今度は装甲の接合部を熱心に擦りだしたからだ。
 俺らセイバートロニアンの身体は、全体が金属の装甲に覆われてて、たいがいの外的刺激には鈍感に出来てるんだが、装甲の接合部や、配線類が表面近くを通ってる間接部にはセンサーが集中してて、比較的敏感になっている。本来は、そういう強度的な弱点になってる部分の破断を、迅速に感知するためのものなんだが、そこンところに、システムが危機を感じない程度の力を加えられるとな、これがまた、とんでもなくくすぐってェんだ。それを、あの馬鹿野郎は触ってきやがったんだ。反則だろ。
 やめろ、って怒鳴りつけようにも、スカイワープの手が触るたびに猛烈にくすぐったくって、まともな言葉なんか出てきやしねェ。アイツが調子に乗って擦り続ける間中、俺は身体を捩って必死で耐えるしかなかった。もしか、どっかであんな拷問を受けたら、俺ァ早々に降参して、何もかも洗いざらい喋っちまうかもしンねェ。それくらいしんどかったぜ。
 吸排気がまともにできねェから機熱は上がってくるし、冷却水はオーバーフロー寸前だし、ちょっとばかし気が遠くなってきたところで、スカイワープは、ようやく手を止めた。やっと気が済んだのかと思って、いつの間にかオフにしてたアイセンサーを入れて見上げたら、アイツ、俺の上で神妙な顔して自分の掌をまじまじと見つめてやがった。それから俺の頭のてっぺんから腹の下あたりまで眺め下ろすと、また手を挙げて、俺に近づけてきた。
 コイツ……! まだ続けやがるつもりかよ。冗談じゃねェ。俺を殺す気か?!
 俺は、近づいてくる手から顔を逸らして、スカイワープを思い切り蹴り飛ばすと、即座に跳ね起きて、その場から逃げ出した。背後から「ぐえっ」とかなんとか、妙な声が聞こえたが、知るかよ。同僚にくすぐり殺されて、ディセプティコン中の笑いモンになるなんてゴメンだ。これは正当防衛なんだ。
 ったく……ワープのヤツが、これに懲りてくれりゃいいんだが――。







 そして今日も、ディセプティコン基地に、水色のシーカーの喚き声が響き渡る。

「だから、どけっつってんだろ! あ、馬鹿、そこ触んな! やめっ……この、クソ馬鹿ワープ!!」








***


Skywarp/Thundercracker







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