... and kiss.4 怖い話





スカイワープが行方不明になった。破壊大帝から直々に指令を受けて基地を出て行ったきり、連絡が取れなくなった。潜入先で撃墜されたか、それともワープの座標を間違えて飛んだか。いずれにしても、軍隊にはままある不幸な出来事。古参の航空兵といえども運命には逆らえなかったのだなと、皆は思った。





3デカサイクルほども経った頃、スカイワープは何事もなかったかのように帰還した。ほとんど生存を諦めていた仲間たちはそれなりに喜んだ。なかでもスカイワープの兄弟機であるサンダークラッカーは、ひときわ嬉しそうだった。彼らは黙ってハグをし再会の喜びを分かち合っていたようだった。ところが。





ある日、スカイワープとサンダークラッカーの同型機であり上官でもあるスタースクリームは、思いつめた顔の水色機から相談を受けた。曰く、スカイワープがおかしい、と。スタースクリームは基本的に自分の事以外には冷たい。だからこう答えた。「ぁあ? 奴がおかしいのは今に始まった話じゃねェだろ」





「いや、そうじゃァなくて、異常なんだ」サンダークラッカーが言った。「異常って何が」「見た目は前と変わらねェんだが」「ンだよ、さっさと言え」「……やたらサカリやがる」そう答えた部下を、スタースクリームは呆れたように見た。「噂には聞いていたが、おめェらやっぱそーゆー関係だったのかよ」





「で、どう変だってンだよ」普段なら、惚気話なんぞに付き合ってられるかと即座に踵を返すところだったが、珍しく機嫌の良かった航空参謀はサンダークラッカーにそう訊ねた。しかし、「アイツ、最近やたら咬みやがる」顔を薄赤く染めた部下の答えに、スタースクリームは急にバカバカしい気分になった。





「……そりゃァ、てめェの相方の性癖なんだろ」「ちげーよ! そりゃ前もちっとは咬んだけど、でも」「あーそーかい」「真面目に聞いてくれって!」サンダークラッカーは必死だったが、半ば面倒になったスタースクリームは、もう耳を貸さなかった。「ま、幸せにやんな」「そのために相談してんだよ!」





スタースクリームに見捨てられたサンダークラッカーは、今度は身近の同僚達に相談した。だが、誰に訊ねてもスカイワープの変化に気づいている者はない。どころか逆に、相談した自分がからかわれる始末。そのうちにサンダークラッカーも、おかしくなったのは実は自分の方なのではないか、と思い始めた。





そうこうしているうちに、サンダークラッカーの行動がスカイワープにバレた。ある晩、ラウンジでコーンヘッズと話していたサンダークラッカーのもとに、ふいにスカイワープが現れた。「クラッカー」「な、なんだよ」かけられた声に過剰に反応し、怯える同型機に向かって、黒いシーカーは微笑みかけた。





「ちょっと来な。話がある」スカイワープは出入り口の方に頸を傾けながら言った。「お、俺、まだコイツらと話が」と、サンダークラッカーは抵抗したが、察しの良いコーンヘッズは、スカイワープの一瞥を受けて即座に答えた。「ああ、俺らなら今度でもいいぜ!」なにごとも、触らぬ神になんとやら、だ。





スカイワープは、部屋に戻った途端にサンダークラッカーを抱き寄せた。そして囁いた。「なんで俺を避けンだよ。俺、おめェに何かした?」何もしない。やたら咬む以外は、以前よりも優しいくらいだ。でも、それが怖い。殴り返す気持ちも逃げる気持ちも失わせるような、真綿で首を締めるような優しさが。





「何も、してねェ」呟くように答えたサンダークラッカーに、スカイワープは慣れた仕種で唇を合わせた。閉じられた唇を、スカイワープの舌が軽くノックする。サンダークラッカーは、それに応えようとして、唐突に咬まれた痛みを思い出した。その記憶に身を固くした瞬間、ガリ、頭の中に嫌な音が響いた。





サンダークラッカーは、咄嗟に自分に覆い被さる機体を跳ね飛ばした。震える手で己の唇を触る。一部に深い破損が生じていた。壁に叩きつけられたスカイワープが、ゆっくりと起き上がった。「ああ、悪ィ。顔だけは壊さないようにって、思ってたんだけど」そう言って微笑んだ口から、オイルが一筋流れた。





「ずっとこうしたいと思ってたんだ」黒いシーカーは同型機の手を取り、その指先にキスをした。それから口腔内に導き入れ――。カリ。「あァ、おめェは甘いな。最高だ」ガリ。サンダークラッカーは、妙な方向にねじ曲がった自分の腕を、リペアすんの大変だろうな、などと思いながら、下から眺めていた。





サンダークラッカーは、スカイワープをその身に受け入れながら、喰われていた。もう、手足のほとんどは喰われてしまったのに、まだ意識があるのを不思議に思った。そして、恍惚の表情で自分を見下ろす兄弟機を愛しいと思った。だが、その顔のパーツが、割れて、その下から、異様な触手、が、覗い、て、





「うわわあぁーーっ!」「何?!」いきなり叫びながら跳ね起き、なおも暴れようとする水色の機体を押さえつけるようにして、スカイワープはその名を呼んだ。「オイって! クラッカー!」「……あ?」ようやく戻ってきた水色機に、スカイワープは深く排気して訊ねた。「どうしたんだよ、いったい……」





「……夢見てた」「夢でこの騒ぎかよ」呆れたように笑う兄弟機をサンダークラッカーは抱きしめた。誰よりも近しい機体の熱が自分を包み込む。良かった。本当のスカイワープはここにいる。「クラッカー…」スカイワープの囁きが落ちてきた。そして、翼の付け根に、カツリ、と歯が当てられたのを感じた。








 << >>







SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送