※設定等、ほぼオリジナルと化しています。
※音波さんは、出てきません。
※スカワ君のターンです。





Double




「サンダークラッカー……」

 闇の中でスカイワープの声がした。何かが、頸部の接続端子に触れている。サンダークラッカーは、閉じかけていたシステムを、もう一度立ち上げ、アイセンサーを開いた。その途端、目の前にあった赤いオプティックと、視線がかち合った。

「スカイワープ……」

 こちらを向いて横たわっている同型機の、自分と同じ規格で造られた顔が、間近で覗き込んでいる。その手は、サンダークラッカーの首元に伸ばされていた。

「なぁ、アレやろうぜ」

 サンダークラッカーが覚醒したのを確認したスカイワープが言った。

「……疲れてンだよ……」
「でもよォ」

 やんわりと拒絶しても、スカイワープの指先は、諦め悪くサンダークラッカーの端子を弄り続けている。紫色の指先が端子を掠めるたびに、ゾクリとするような、それでいて安心するような、相反する感覚が、サンダークラッカーの中に生成されていく。

「ああ、もう。仕方ねェな」

 つくづく俺はコイツに甘い、とサンダークラッカーは思う。
 サンダークラッカーの返事に、嬉しそうな顔をしたスカイワープが、いそいそと自分の首元から接続コードを引き出し、今まで弄んでいたサンダークラッカーの端子に接続した。サンダークラッカーも、同じようにしてスカイワープの頸部にある接続端子に、自身のコードを接続する。
 そうして、感覚を共有するのだ。
 同期までのタイムラグと浮遊感を、視界を閉ざしてやり過ごす。サンダークラッカーが、ふたたびアイセンサーを開くと、目の前に「自分の顔」があった。スカイワープの腕が動くのを、スカイワープの眼で見る。紫色の指先が自分の黒い指先を捕らえ、絡めるのが見えた。絡め取られた指先の感覚は、目の前の自分が感じているものだ。だが、それと同時に、スカイワープの指先に絡められている、自分の指先の存在も感じる。
 中身が入れ替わったわけではない。スカイワープのアイセンサーを通して、自分の姿が見えているだけだ。自分とスカイワープ、触れあっている双方の感触を、同時に知覚しているだけだ。自分の機体の感覚と、相手の機体の感覚とを重ね合わせる。その一方で、重なりきらないズレが生む眩暈。こうして自己と他機との境界を、どこまでも曖昧にする行為を、スカイワープは、サンダークラッカーに頻繁に求めた。
 ときには、接続を介した交歓にも使われるというこの行為に、スカイワープがどんな意味を見出しているのか、サンダークラッカーは知らない。自分たちのそれは、パルスを流しあうまでには至らない。本当に、ただの感覚の共有なのだ。
 ただ、最近はとくに回数が増えたような気がする。最近……自分が、サウンドウェーブのところに行くようになってから。

「……」

 手のひらを合わせ、組まれたスカイワープの指先が、サンダークラッカーの手の甲を軽く撫でている。サンダークラッカーも、同じようにスカイワープの手に指先を這わせた。

「……っ、サンダー、クラッカー……!」

 出し抜けに、スカイワープが切羽詰まった声を絞り出した。

「……っう」

 スカイワープの眼を借りたサンダークラッカーの視界の中で、自分自身の顔がわずかに顰められる。
 機体内を軽いパルスが走り抜けたのだ。不意打ちに機体が震える。反射的に逃げようとしたサンダークラッカーを、スカイワープは、絡めた指にさらに力を籠めることで封じた。そして、続けざまにパルスを送り出す。遠慮がちにではあるが、確実に機体を刺激していくスカイワープのパルス送信に、サンダークラッカーは、自分の顔が、次第にだらしなく色づいていくのを見た。とっさに視覚を遮断する。
 ――見たくない!

「よせワープ……っ……やめろ!」

 強く戒められた指先を無理やりにもぎ放し、接続を外そうとコードに手をかける。

「ちょ、待て! クラッカー!」

 スカイワープの慌てた声がして、手首を掴まれた。それでもなお暴れるサンダークラッカーに、埒が明かないと判断したのか(なにしろ同型機だけに、力はほぼ互角だ)、スカイワープは、拘束した腕ごとサンダークラッカーを強く抱きしめた。必然的にお互いの顔が、それぞれの聴覚センサーの側に寄せられる。スカイワープが宥めるように言った。

「いきなり接続を切ったら、ヤベェだろうがよ」
「おめェが変なコトするからだろうがッ!」
 サンダークラッカーが、スカイワープの聴覚センサーに向かって遠慮なく怒鳴り声を叩きつけると、スカイワープは腕の力をさらに強めた。二機の間でお互いのキャノピーが圧迫されて、ギシギシと嫌な音を立てた。

「ワープ、この馬鹿力! 痛ェ! 放しやがれッ!」
「放したら、おめェ、また暴れるだろ……」
 サンダークラッカーの肩に顔を埋めたまま、スカイワープが言う。隠れていて見えないのに、いかにも「しょんぼり」といった表情まで分かるような気弱な声だったから、サンダークラッカーの怒りも、急速にしぼんでしまった。
 やっぱり俺、コイツに甘いよな。

「……分かったよ……。もう暴れねェよ。だから放せよ」

 しかし、スカイワープは、サンダークラッカーにしがみついたまま、かぶりを振った。それでも締めつける力は少し緩められた。
 サンダークラッカーは、軽く排気をして、いまだに顔を上げないスカイワープに話しかけた。

「なァ、おい、どうしたんだよ? なんで急にこんな、」
「おめェが」
「ん?」
「……おめェが、音波野郎にくっついてンのが、イヤだ」
「は?」

 なぜ、その話題?
 サンダークラッカーが、思わず間の抜けた声を出すと、スカイワープは、パッと顔を上げて、サンダークラッカーを睨みつけた。

「おめェは、俺のもンだ! 俺のもンなのに、」
「……」

 スカイワープの顔が、悔しげに歪んだ。

「なんで……、おめェは……」

 嫉妬? なぜ?
 自分とあの情報参謀の間柄は、この兄弟機にまで、そんなふうに取られるように見えているのだろうか?
「――なぁ、ワープよ。お前さんが何を勘違いしてるのか知らねぇが、俺ァ、サウンドウェーブとは何もねェよ」
「ホントかよ?!」
「ホントだ」

 言いながら、スカイワープに手を伸ばす。スカイワープは、差し出されたサンダークラッカーの黒い手を掴み、自ら頬を押しつけるようにした。

「ホントにホントなんだな……? アイツとは何もねェんだな? 俺から離れちまったり、しねェな?」

 彼は、いったい何を心配しているのだろうか? 自分が見捨てられるとでも思い込んでいるのか?
 そんなこと、できるはずがないのに。

「言っただろ。俺がアイツにくっついてンのは、命令だからって」
「でも、」
「スカイワープ。俺の特別はお前だけだよ。お前の代わりなんてない」

 ずっと、一緒にいたのだ。無二の能力を持つスカイワープと、何も無い自分と。
 空気のように、そこにいるのが当たり前なのに。空気のように、そこにいなくてはならないのに。何を今更、しがみつく必要があるのか。

「たとえ、うっかりもんのお前さんが、俺のことォ忘れちまってもな、お前は俺の特別だ。お前だけだ」

 少しおどけた口調で言うと、スカイワープは、如何にも心外といった様子でまくしたてた。

「バッカヤロウ! 俺がおめェを忘れるなンてこと、あるわけねーだろーが!」
「さァな。なんせ、たまにワープのしかたまで忘れるスカイワープ様だもんな。アヤシイもんだぜ」
「そ、それはよゥっ……」

 はは、と笑い、サンダークラッカーはスカイワープのヘルメットを軽く叩いた。
 この話はお終い、ジェスチャーに含まれた意図を読み取り、スカイワープは不満げな顔をして黙り込む。
 すっかりリンクが切れてしまい、お互いをただ繋ぐだけになっていたコードを回収しながら、サンダークラッカーはスカイワープに言った。

「どうする? 部屋に戻るか?」

 その言葉に、スカイワープは首を横に振ると、またサンダークラッカーに抱きついた。

「ワープ?」
「なァ、こうしてても、いいか?」
「……」
「もう何もしねェから。おめェのイヤがるコト、絶対しねェから。だから」

 自分と同じ顔が、縋るように覗き込む。
 ――ずっと、一緒にいた。寸分変わらぬ姿と、違う心を持った同型機。たとえ機体の距離をゼロにしたとしても、一つのものになど、なれるはずはないのに、……“兄弟”、お前が望んでいるのは、それなのか?

「……お前を放り出すようなマネ、俺にできるワケねェだろ」

 サンダークラッカーは、吐息だけで笑い、そう囁くとスカイワープの背に腕を廻した。








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